発言席
おめでとう!
伊藤 比呂美
pp.935
発行日 1987年11月10日
Published Date 1987/11/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662207413
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コドモを産んでいらい,保健所というのはいちばん身近なおカミの窓口になっているが,どうも,好んで行きたくないような場所である。母子手帳の交付や予防接種をやってもらうのは助かるが,その対応は機械的で温かみのカケラもない。コドモの健診では,ちょっとした発達の遅れがやたら目につくようなしくみになっていて,わたしたちはおどおどびくびくしながらそれを受ける。
話はとぶが,隔離されて育てられたサルは,自分の子を産んでもうまく育てられないそうだ。群れの中でやっておくべき,子育ての予習も準備もできてないせいだ。じつは,わたしたちも今ほとんど同じ状況にある。みんな孤独な小家族に生まれて育ち,はじめてさわるアカンボが自分の子で,おいそれとは母親の気分になれない。しょうがないから,いろんなメディアから知識を集めてなんとか対処しようとする。ない経験と過剰な知識にふりまわされて,わたしたちはいつも不安,じつはアカンボをあやすことさえ不安。おむつを替えたりミルクをやったりは手先の問題だからすぐ熟練するのに,あやす,いっしょに遊ぶ,ということはどうもぎごちない。楽しいと思うのが一苦労だ。そしてまた今どきの育児は,ひたすら抱いてやる話しかけてやることを推奨する。胎児のころから手をかけ足をかけて育てるべきだ,ということになっている。必死でむりやりあやすから,よけいアカンボとの関係がぎこちなくなる。
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