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佐保の朝霧
及川 英雄
pp.51-56
発行日 1952年4月10日
Published Date 1952/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662200269
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うすら寒い風は遠慮なく筵張りの掛小屋の内部に流れ込み,時折り御殿風の背景がバタバタと揺れた。
三百人とは這入れない掛小屋の中に,ざつと一杯の観客の入りだつた。場内整理に当つている白い腕章を巻いた青年団員が,そうした中を忙しそうに歩き廻つていた。狹い小屋の中は,多勢の子供たちががやがやと騒いで,それを制する大人の声があちらとちらに起り,時折り「とうざい--とうざい……」と舞台から冴えた拍子木の音がした。
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