連載 ルポ・天主堂のそびえる島“黒島”・その4
鬼利死炭の長い夜
木島 昻
1
1小児科
pp.84-86
発行日 1968年4月1日
Published Date 1968/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661913953
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暗黒の夜
遠い海のいさり火か,島のまばらな人家の灯か,心もとない沖のあかりを頼りに,車を下りてから海ぞいの石ころの道をずいぶんと時間をくってあるく。僕が“太陽の娘”と名づけてよぶ宿の娘がただ一人,「ただいま」と呼びかける声にはるか間をおいて,「おそかったとばいー」と迎えてくれた。
めしとお湯のポットがふたつ,これだけが銀色の軽金属の肌を暗い電灯に光らせて,なにやら島の夜にそぐわぬ文化的光沢だ。膳の上,デコデコとわざとらしさの着飾りのない,それでいて真実は豊かな島の娘を思わせる素朴で親切な馳走。大海老の塩むし一尾をまんなかに,キッコリ(石だい)の刺身大皿,キュウロッポ(皮ハギ)の煮つけ,唐津物の碗ながら美しい糸ヨリの吸もの,それにズイキの酢味噌,たくあん。ひとりでよそうめしは色黒くパサパサしていたが,島の味を噛みしめる思い。食べ終わったら膳はそとの廊下に出しておけ,朝めしは何時頃にすっとかと娘は僕にたずね,となりの部屋に風を起こしてふとんを敷く。
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