社会病理と精神衛生・8
売春禁止法前後
高木 隆郎
1
1京都大学医学部精神科
pp.52-54
発行日 1964年4月1日
Published Date 1964/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661912211
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1.売春防止法の成立
売春防止法は1956年(昭31)5月21日に,衆参両院の婦人議員団のいわゆる超党派的団結によって,国会を通過した。このときから,日本社会において,“売春は社会的必要悪から法律的禁止悪へと180度の変転を行なった”(前田信二郎・売春と人身売買の構造,同文書院,1958)。だがこれにいたるまでには,実にさまざまの経過があった。
古い売春の歴史をしらべることは,いまわれわれにとってあまり重要なことではない。ともかくも,われわれが祖先からうけついだ日本の売春の形態は,人身売買を前提とし,封建制度のもとで繁栄した遊廓であり,つまり,貧困な家庭の子女たちが,そこに売られて行くことによって,実は成立していたといってもよい。実際,公娼制度を男子とくに未婚青年層の生理的必要悪として認めるなどという議論は,現実のほんの一面しかみていない単純なもので,たとえば,テレビならテレビという商品は大衆が一戸に一台を所有したがっているから売られている,というのと同じで,それまでの科学,技術といった発明者側の努力と,それを大衆価格にまでもってきた資本側,生産者側の機構を無視したものである(たとえば,現段階でカラー・テレビを自分でもちたいという要求は一般になく,小企業者がソロバンにかえて電子計算機を求めようとは思っていない)。
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