講座
患者の心理と看護(3)—どう把握し,どう活かすか
島崎 敏樹
1
,
松下 ひそか
1
1東京医科歯科大学精神神経医学教室
pp.70-73
発行日 1962年7月15日
Published Date 1962/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661911690
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
Ⅲ.精神疾患の人の心理
「私の病気は出産後不眠となり,憂うつでつぎつぎと色々なことを気にかけて医者に診察を受けました。その時カルテに○○○○と書いてあるのを読み,いやな病気だなと思いました。その日は何もなくすみましたが,夜,赤ん坊のことで再び眠れなくなり,翌日一日中,理由もなく泣いてばかりおりました。その後,私は赤ん坊のことのみに神経質でない自分に気がつきました。毎日カルテを見たのがいけなかったのだといつて泣いておりました。この気持は誰にもわかって貰えませんでした。夜などは赤ん坊の面倒をみるのがつらく,早くもとの自分に戻りたいと,そればかり思っておりました。あたりまえのことをするのがつらく,夫や母の言葉すら強く感じ,もう治らないのではないかと思い,ただ泣くばかりでした。親になったのに何をとぼけたことをいっているのかと,いくらいいきかせられてもだめなのです。親になったことを忘れて病気にばかりとらわれている自分をどうすることもできません。いろいろと心配してくれる人々のために早く治らなければならないことがどんなに苦しく感じられたかわかりません……しかし今度こそ赤ん坊のため病気を一日も早く治そうと覚悟をきめました。どうか,もとの私に戻して下さいますよう先生のお力でお救い下さいませ。」
これは,出産後ひどい憂うつ状態におちいった婦人が初診時にもってきた手紙である。
Copyright © 1962, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.