- 文献概要
「はずんだママの独り言,坊やが大学ゆけるようせつせと貯金をいたしましよう」
これは,しばらく前まで,朝毎にラジオを通じて流れていた,「ママのお洗たく」という明るい歌の一部分であります。私はこのうたが,その調子のよさと,如何にも,つましい母親の愛児の成長をねがう親心がにじみ出ていて,あたたかさに溢れている点で大好きなのです。そしてそれがお洗たく中のママの頭の中に占められているということが,更に私に親しみを加えているのです。といいますのは,私もお洗たくをする時は,必ず何か頭の中で考えているのですが,それが,きまつて何か幾分空想めいてはいますが,期待を含めたたのしいことであるからなのです。或る時はプランしているたのしい旅行のことであつたり,来年の自分自身の生活設計であつたり,未知の外国めぐりであつたり,時には本当にたあいのないこともあるのです。私は,これは自分が洗たくをすることが非常に好きで,身も心もさばさばと,さつぱりするので,自然に考えることも健康的で,清潔なのではないかと考えています。いつか読んだ小さな記事に,山と積まれた洗たくものを,片端から片づけて,バタバタと風になびく何本かの竿のほしものを見上げ,母とお茶をのむのが一日中で一番たのしい時だと,書かれていた或主婦の思いは,そつくりそのまま,私もうけとれるのです。
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