——
結婚した千姫と坂崎出羽守
野一色 武雄
pp.66-69
発行日 1955年1月15日
Published Date 1955/1/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661909739
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
話が大部古くなるので今の映画ファンの中には題名を聞いても,あの映画かと思い出される方が少いかもしれないが,松竹京都で山田五十鈴の千姫,坂東好太郞の坂崎出羽守,東山千栄子の淀君で『大阪夏の陣』を撮つたことがある。問題はこの映画がイタリーへ渡つたことからはじまるのである。今でこそ,羅生門だとか地獄門だとかで日本映画も堂々とヨーロッパに送られ,向うの人との間にも日本映画の一端は解つてもらえる時代となつたが,その頃は一部の関係者を除くと,日本では映画が製作されているのかどうかさえ知らない者の方が多かつたくらいである。もつとも,その前の年日活がヴェニスの映画祭に『五人の斥候兵』を出して国民文化大臣賞を授けられたことはあつた。しかしながら,『五人の斥候兵』は結局映画祭へ出品され,極くわずかの関係者が観ただけで,当時直ちに一般公開されるという段取りには至らなかつた。この映画が国民文化大臣賞を受けたのも,映画そのものの価値のほかに,その頃から急激に親密の度を加えはじめた,日伊両国の政治的な背景が大きく物をいつたに違いないと思われる節がある。その証拠に,ヴェニスの映画コンクールでは毎年のように優位を保つていた米国映画が,日独伊防共協定が締結されてからは段々と影を薄め,これに代つてドイツ映画が急に上位の賞を受けるようになつた事実もあり,『五人の斥候兵」もこれに便乗したかの観が多分に伺がわれた。
Copyright © 1955, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.