発行日 1953年6月15日
Published Date 1953/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907324
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
消毒と滅菌とは區別されるべきものであるが,實際には同意義に使用されている場合が多い。嚴密なる意味に於ては,滅菌とは菌の完全なる撲滅を圖る事であり絶對的なものであるが,消毒法とは既に感染せる菌を死滅せしめんとする言わば比較的なものである。
消毒法の歴史は非常に古いものであつて,既に西暦2000年以上も以前に,かの有名なるギリシヤの醫師ヒポクラテスは創傷の治療に際しては酒か綺麗な水或いは一旦煮沸した湯でなければいけないと彼自身の經驗に基いて結論している。かかる考え方は既に今日の消毒法の基礎をなすものである。當時は,外科と言うものは主として外傷治療に限られておつたようで,ヒポクラテス自身も戰爭だけが外科醫にとつて良い學校である。と言つている位である。此の様なハンディキャップがあつたにも拘らずローマ帝國時代のギリシヤの醫師達が西暦40年頃既にヘルニア,白内障,帝王切開或いは動脈瘤の手術の行つた記録がある。それからずつと後になつて1842〜6年頃麻酔法が發見された當初は手術の行われる領域が急に廣まつて,其の爲めに感染の機會も増加して來,感染豫防と言う事が次第に問題となつて來たのである。曾ては創傷の化膿は創傷自體から生ずる位に考えられていたのであるが,それが外部から侵入するものであると言う事が次第に判つて來た。
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.