ケース・スタデイ
精神病と患者の短歌
中尾 幸治
1
1都立松澤病院
pp.46-49
発行日 1953年5月15日
Published Date 1953/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661907300
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一般社會人は精神病患者とあれば,人間失格でケダモノ化したように見るのが通常であるが,これは大きな誤りといわねばならない人。間の精神活動は智能,感情,意志の三方面から成立つていると見ることが出來る。第一の智能方面の精神活動は吾々が周圍の状態を認識して,色々の事を考えたり判斷したりして生活をまつとうして行くがための能力である。この智能の基になる精神作用は,五官,即ち視たり,聽いたり,嗅いだり,味わつたり,觸れるのを感じたりする感覺作用である。しかし感覺するのみでは感じた對象物が何であるかが分らない。人の話を單に音として聞くだけでなく言葉として知覺し,更にその言葉の意味を領解しなければならない。即ち吾々は,周圍の出來事を知覺し,認識し,領解して行き,そして頭脳の中に外部からの印象が刻まれるのである。
頭脳の中に印象を刻むことは即ち憶え込む事であつて,これを記銘と稱する。そして記銘された出來事を後になつて覺えだすことは追想と呼ばれている。そして記銘したり追想したりする精神作用を記憶作用と言うのである。吾々はこのように知覺したり,領解したりした事を記憶して行く中に知識が増して來る。記憶している色々の事を頭の中で色々に結び合せることを聯想と呼び,この聯想によつて吾々は物を考える譯である。
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