発行日 1948年7月15日
Published Date 1948/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1661906351
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わたしが中學時代をすごした鳥取の米子市に博愛病院という病院がある。全科完備した地方にはちよつと稀な大きな病院というだけで,一見したところ別に何の變哲もない病院であるけれども,これが日本では二つとない特異な病院である。というのはこの病院が設立されたのは20數年前であるが,その組織が株式會社となつていることである。いうまでもなく,會社は營利を目的とする企業があるが,病院が企業として設立されたことは,「醫は仁術」という觀念を眞向から打ち破つたものであつて,全く珍らしいものである。
ところで,政府はその懷が苦しいのでいろいろな税金を考え出しているが,この度事業税という新税を案出して,醫師,辯護士,農民などの純益の一割を取り立てるということである。事業という語はボンヤリした表し方であるが,一言でいえば企業,營業ということである。「醫は仁術」という觀念で從來は醫師は公衆に奉仕するものと考えられていたけれども,今後はハッキリした營利事業として公認されたのである。醫者はこれからは堂々と貪つてよろしいという反對解釋がなり立つわけで,從つてドンドン株式會社の病院が設立されるかも知れない。恐ろしいことである。この傳で行くと私立學校にも事業税が賦課されるかも知れない。たいへんな文化國家ができあがるわけである。
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