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―口腔ケアは看護のなかでもベーシックな日常生活援助の1つですが,しばしば口腔ケアの不足がもたらす弊害(肺炎,摂食嚥下障害,口腔乾燥,会話困難など)が指摘されます.病院勤務の歯科医であり,口腔問題,とりわけ口腔乾燥症に関する第一人者の先生の目から見て,看護師の口腔ケアは何が問題だと思いますか.
柿木 私の経験から感じることは,口腔ケアのレベルは病棟単位でかなり違いがあるということです.病棟の管理者,つまり師長クラスの人が,口腔ケアの重要性をきちんと理解しているかどうかによって,その病棟全体の口腔ケアのレベルが決まるといえます.スタッフとしての看護師が個人的に関心を持って勉強しても,組織としてのサポート体制がなければ継続的な実行は難しい.だから,私はだれより看護師長に勉強してもらいたいと思っています.
―疾病構造の変化や高齢化によって,口腔ケアが必要な患者さんは増えているのに,ニーズにケアが追いついていない状態は問題ですね.
柿木 そうですね.治療との関係でいえば,薬は口腔の問題を増加させている一因だと思います.それから一般論としていえば,高齢者のなかには口腔の問題を抱えていても訴えない人もいます.年のせいだと思ってあきらめている方もいるし,常に口が汚れたままの状態でいると,その状態に慣れてしまい,汚れていても汚れたという感じがしなくなってくる.その結果,訴えがなくなってしまうこともあります.口の中の問題は,口の中を見ないとわかりません.何も言わない患者さんの口をわざわざあけてみることができますか? 結局,口腔ケアが日常的に根づいているかによって,問題が発見される頻度も変わってくるといえるでしょう.
しかし1つ忘れてはならないのは,患者さんの中には言いたくても言えない人がいるのだということです.口の中が乾いて舌が動かせない,声がでないという人もいます.口が渇くということは唾液の分泌量が減っているということですが,そういう患者さんは,飲み込みが悪くなり,誤嚥しやすく,肺炎を引き起こしやすい.困っているのにそれを言うこともできず,気づかれもせず,放置されたまま,孤独のうちに亡くなられる患者さんもいます.私も誰にも気づいてもらえないまま,長年口の問題に苦しんでこられた患者さんに何人も出会いました.
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