付録 〈カレンダー〉解説
「読書」黒田 清輝
pp.43
発行日 1971年4月1日
Published Date 1971/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611204105
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わが国の美術は,明治維新を契機として大きく転換したが,それは西洋美術をだいたんにとり入れたことによる。1876年(明治9年)設立の国立工部美術学校を卒業した浅井忠が,まずわが国の洋画を軌道に乗せた。そのあとをうけて日本近代美術を大きく前進させたのが,黒田清輝であった。黒田清輝は,めぐまれた環境に育って長いことフランスに留学した。彼は多くのすぐれた作品を描いただけでなく,日本の近代美術の発展のために積極的に活動し,さらに日本文化全体の向上のためにも,その包容力と指導力とを発揮した。読書は1890年に描かれ翌年筆を加えて出品されたもので,作者の初期の代表作である。上衣の朱とスカートの濃紺とが明快な対比をなし,人体は正確に描写されて,本の頁をめくる手の表情が繊細な感覚を充満させている。そして鎧戸からさしこむ光の微妙な反射もみごとにとらえられる。
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