わたしの受けた産科看護
お産以外の苦痛はさけたい
乾 紀子
pp.48
発行日 1968年12月1日
Published Date 1968/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611203673
- 有料閲覧
- 文献概要
はじめてのお産だから,何の心配もなく,ぜひ順調に進んでほしいと思い,毎月の受診では上むくみや蛋白のプラス・マイナスに一喜一憂していた.9カ月に入って,逆子(さかご)と診断され,2週間ほど胸膝位の姿勢をとったが効果はなく,不安に思いながらお産をむかえた.大事をとって陣痛が始まる前に入院した.夕方4時頃から陣痛誘発剤の点滴を開始,その間,陣痛が起こると心音が乱れるとかで酸素吸入を受けた.そうやってあくる日の夕方まで,一睡もせず,もちろん何も食べずに,次から次へと波のように押し寄せてくる陣痛を必死でこらえていた.そしてお産が始まり,いざいきむ段になったら,力がはいらず,睡気さえもよおして,医師や助産婦にどなられながら,やっとの思いで分娩をすませる始末だった.
まさしく"生みの苦しみ"を味わったわけだが,あまりの痛さに,産声を聞いてもほとんど感激はなく,ただ痛みから解放されてホッとするだけだった.それよりも,もっともっと私が涙のでるほど感激したのは,全身清拭が終わってねまきに着替えたあと,助産婦さんが持ってきてくれた冷いお茶だった.私は茶わんの底に残った茶の葉まで,ビニールのストローで夢中で吸った.そのお茶のおいしかったこと,今でも舌の上に思い出すことができる.
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.