- 有料閲覧
- 文献概要
□陣痛微弱だったお産□
13年ぶりの暑い夏,それでも9月に入ると朝夕めっりしのぎやすくなりました.9月20日分娩予定日の前日,朝からお産のしるしがあり,いよいよその日が近づいたことを感じました.夕方4時頃陣痛のような痛みが15分ごとくらいにき始め,またお腹がはったりするので病院へ行きました.
病室に落着くと陣痛は遠ざかり,10時頃院長先生の診察を受けたところ,「そろそろお産が始まったのでしょう,真夜中やあけ方にまたかけつけるのでは大変だからここで泊っていきなさい」ということでした.案のじょうあけ方から陣痛が再び始まり,5時頃からは10分ごとぐらいに規則的に痛み出しました.ところが昼になっても夕方になっても7〜8分よりは短くならず,看護婦さんも首をかしげる始末でした.検診をうけたところ,「うまい具合に子宮が開き,そこまで赤ん坊の頭がさがってきている」という先生の言葉に,なにやら本当に生れるんだなアという実感が湧いてきました.7時すぎに2度目に分娩台に上りましたが,どうも先生が現われると陣痛がやんでしまうので,先生も苦笑するありさまでした.いわゆる陣痛微弱ということで陣痛を促進する注射をしてもらったところ痛みばかりきて体はふるえるばかりでいきみがこず,アリナミンとブドウ糖の注射でようやく活力がついたのか,いきみが始まりました.分娩台に上ってからは,このままでは赤ん坊も自分も弱ってしまうばかりだから,ともかく生まなくてはという気持になり,いきみがきた時には,年若い二人の看護婦さんに「しっかり,しっかり」と励まされもう無我夢中でした.何度かのいきみの後,お湯のようなものと一緒にどっと何かが体外におし出されたように感じた瞬間,実にかん高い赤ん坊の泣き声がしてとうとう生れたなアと思いました.同時に,目がしらが熱くなるのを感じました.時に9時25分でした.「女の児さんですよ」とお盆のようなもののうえに乗せられた赤ん坊を近視の目でおいながら,手足が細くお腹がぷくっとしていてかえるみたいだなアなんて思いました.
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.