巻頭随想
しあわせな時間
高田 敏子
pp.9
発行日 1965年6月1日
Published Date 1965/6/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611202980
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女のいちばんしあわせなとき,それは,赤ちゃんの生声を聞いた瞬間,そしてそのあとの安らぎの時間だろう.いままでの痛みはうそのように消え去って,よろこびと安堵が全身をつつむ.それはまるで,美しい雲につつまれている思いで,生湯をつかわせる音も,助産婦さんの話し声も,天上できく音楽のようにひびいてくる.
長女を生んだのはハルピンで,まだ20歳をすぎたばかりの私は,子どもを生むことが心配で心細く,生着の用意をするのは人形の服でも縫うようにたのしかったものの,出産の日のことを思うと,ただこわいばかり,無事に生めるかどうかと,暗い想像ばかりしてしまうのだった.
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