産科こぼればなし
さあどうしましよう
pp.29
発行日 1960年9月1日
Published Date 1960/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201984
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助産婦になりたての頃は誰でも経験することだが,何でも出来るような,又何にも出来ないような落付かない気分のものだ.自分だけで保護した児が頭から出て来たか,臀から出て来たかを覚えていない人はないだろうが,躯幹娩出時に第Ⅰ胎向だつたか第Ⅱだつたかを忘れる事はよくあるようだ.ある新人助産婦,一人で分娩を取上げて第Ⅰ度の仮死,一生懸命蘇生術をやつてやつと啼泣させた処,介助者が児を沐浴室へ連れて行つてしまつた.蘇生に夢中であつた彼女,児が泣いてくれた喜びに頭が一ぱいでつい児の性別を見そこなつた.我が子の産声を聞いてほつとした産婦が先ず第一に尋ねるのは五体満足と云うことで,これは例え異常があつてもすぐに母親に言う必要はないからよく見ていない時でも,"ええ何ともありませんよ".と答えればよい.然し次の質問で"男でしたか,女でしたか?"と来たときにはその新人助産婦氏全く答えに窮した.さりとて知りませんと云えば自分の注意力の不足を暴露し,ひいては実力を疑われる結果になると考え,えい確率は1/2とばかりに"お坊つちやんですよ".と云つてのけた.ところが沐浴を終えて児を見せに来た介助者が"おめでとうございます.ほらこんなに大きなお嬢ちやまですよ".と言つた.助産婦氏自らの運の悪いことを天に向つて長嘆息したと云う.やつぱり知らないものは知らないと言つた方が無難.それよりも児の性別は取上げた者が必ず即時確認することが大切だ.
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