随筆
御前会議
春 三
pp.54-55
発行日 1960年3月1日
Published Date 1960/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201876
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数年前の話である.木枯しの吹きすさぶ,ある冬の午後,昼の暖房の名残りのみでほのかな暖かさも,やや冷えかけた院長室は例の如く,ざわついている.ゴマ塩頭の貴公子然とした院長,白髪の老事務長を真中にして内科,結核科,外科等の老大家がその脇に座を占め,眼科,耳鼻科,小児科等の少班各部長をはじめとして検査,薬剤,放射線部長,看護婦長などが左右に居並んでちようどコの字型となつて,いつもの会議がはじまるのであつた.口さがない病院の悪童どもは,このスタッフ会議を御前会議と揶揄して呼んでいたが,この会議は以前から病院運営協議のため時折,院長によつて招集されるのだということであるが,封建性の強い医師・看護婦の世界のことでもあるし,或は院長の風格を風刺してであつたか,或は又進歩性のない,いわゆる首脳部に対して若い者のはかないレジスタンスからかは,よく知られていないが,この会議の方向に病院の運営が進められてゆくのは決定的であつたということである.
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