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白い築地
石原 隆良
pp.24-25
発行日 1958年7月1日
Published Date 1958/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611201502
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先日久しぶりで墓参の為郷里に帰つた.私の田舎は岡山県の山奥にあるので,東京から行くとすれば,どうしても十数時間はかかる.はじめの頃はめずらしかつた途中の景色も,度重なる往復の車窓からはもう興味が薄らいでしまつた.今ではたいてい東京を夜の9時半頃にたつて東海道は夢うつつで通過することにしている.夏ならば名古屋を過ぎる頃から空が白んで来て岐阜ですつかり夜があける.夜行列車のお客がおりるのも,この岐阜駅から先になる.まだ眠り足りない様な気持でいる時に"ぎふ""ぎふ"と云う駅のアナウンスを聞くといかにも間の抜けた感じで,しみじみと東京をはなれて"いなか"に来た思いがする.尤も今では電化されてしまつてどこまで行つても発車の時は"ピーツ"と云う近代的な響きを放つので面白くない.汽車と云うのは矢張り"ボーツ"と云う汽笛が,あたりの山にこだまする方が情緒があつていいと思うのだが…….ピーツと云うままに大阪駅に到着する.ここから又少々程度の悪い奴に乗りかえて更に5時間近くゆられる.姫路までは山陽本線を通るので左手に明石の海を眺め,"やくやもしほ"のまつほの浦をはるかに望み誠に楽しいが,いよいよ姫路を過ぎると白鷺城の美しさにも別れて田と畑との中を中国山脈に向つて坦々と走つて行く.まことに退屈だがここを通る時いつも白い土塀の家が見えるのがなつかしい.
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