講座
薬の話—その一・風邪の薬
真下 啓明
1
1東大田坂内科
pp.24-27
発行日 1956年2月1日
Published Date 1956/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1611200998
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昔から俗にかぜをひくといわれて鼻みずを出したり,くさめをしたりして発熱,ときに頭痛その他かなりつよい全身症状を伴う疾患があり,これら一群の上気道疾患がビールス性であることが知られていた.近年に至り多くのビールス学者の努力によつて,これらのかぜ症候群を呈する疾患の病原体が,決して単一の病原体によつておこるものでないことが明になつてきた.すなわちインフルエンザ・ビールスを始めとして,いわゆる普通感冒ビールス,その他分類不能なビールス性上気道疾患の病原体であるビールスが病原体として知られている.しかし臨床的にはこれらのいずれのビールスによるものであるかをきめることはきわめてむつかしいことである.しかしいわゆるかぜと称せられる症候群が今日上述の如く考えられているということは記憶さるべきことである.このことは臨床的にかぜとして考えられても,その中にはインフルエンザの如く全身症状のきわめて著しいものまでがありうるのであり,そこで当然治療上薬剤の用い方にも考慮されなければならなくなるからである.
かぜ疾患群に対する薬の問題であるが,現在の状態においては他の大部分のビールス性疾患の場合と同様に,いわゆる特効薬とし応用しうるものはない.ペニシリン,オーレオマイシンのごとき抗生物質剤も後にのべるごとく二次的な細菌性感染に対する役割はあるが,決して普通感冒,インフルエンザなどのビールスに対しては抗菌作用はない.
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