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はじめに
医療機関における転倒・転落はインシデント報告のなかでも頻度が高く,日本医療機能評価機構医療事故防止事業部1)の報告では2015年に発生した医療事故3,654件中,転倒・転落事故は793件(21.7%)である.そのうち影響度分類レベル3b以上となる例は10%(2.1%が死亡,7.9%が障害残存の可能性が高い)を占め,入院期間の延長に加え,入院に至った原因疾患よりもさらに深刻な状況に陥る可能性もある.
松山市民病院(以下,当院)での転倒予防対策は2004年から「職種横断・多職種で取り組む」ということをテーマに活動を展開してきた.入院から退院まで患者・家族そして病院にも不利益が生じないよう病院全体で取り組むという姿勢が対策の基本理念である.ただし,対策を展開していくのに最も問題になるのが転倒・転落事故に対する職種間の意識の温度差である.
病院内で起こる転倒・転落事故の約80%は病棟(病室,廊下,トイレ)で発生する.したがって初動対応を行うのはほとんどが看護師であり,それに対する危機意識が高いのも事実である.理学療法士は院内で直接患者の転倒・転落事故に遭遇する機会が少ない.日々の業務で,患者の療養生活における転倒へのリスク回避へ強い危機意識をもって業務にあたる理学療法士がどれほどいるであろうか.理学療法士は,病院組織のなかで動く医療技術スタッフとして,患者の低下した身体運動機能を可能な限り改善することを業としている.患者の入院生活上の移動能力にも視点を置き活動度の判断を病棟スタッフと協議・判断していくこと,またチームとして転倒予防対策に寄与できることが特に望まれていることではないだろうか.
本稿では患者の安全を各職種の専門性を超えて包括的に考慮し,チームとしての行動に反映できる理学療法士像について筆者自身の経験を通しての知見を述べたい.
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