書評
―大橋ゆかり 著―『セラピストのための運動学習ABC』
高橋 正明
1
1昭和大学保健医療学部
pp.186
発行日 2005年2月15日
Published Date 2005/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551102499
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理学療法の世界に極めてユニークで希有な本が誕生した.「セラピストのための運動学習ABC」である.一種独特とか物珍しいと言っているのではない.唯一,無比,まさに今という時代の必要性において,その抽象的な概念説明のわかりやすさにおいて,そして全体を通して理学療法の方向性を示唆するその説得力において,これほど卓越した本は見たことがないという驚きの表現である.
本書のテーマである運動の制御と学習は,アメリカでは理学療法の新しい枠組みの土台と位置づけられ,わが国では多くの人が一度は飛びつきながら,その難解さ故に途中であきらめてしまう,なかなかやっかいな領域である.アフォーダンス,運動技能,エコロジー,学習の転移,課題指向型アプローチ,逆振り子,自己組織化,スキーマ理論,運動の戦略,ダイナミカルシステムズ理論,ファイズシフト等々,抽象的で非日常的な言葉が並ぶ.この業界で,これらを他人にわかりやすく説明できる人はおそらくいない.ところが本書はそれをやってのけているのである.しかも,実は,本書の面目躍如たるところはさらに他にあるのだ.それらを理論的に関連づけ,歴史的に関係づけることで有機的につながった全体像の基本的枠組みを浮き上がらせ,それを読者の論理的思考プロセスに沿ってわかりやすく提示しているのである.通読すれば,知らないうちに新しい枠組みの中でものを考えている自分に気づくであろう.
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