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医療関係者,特に臨床検査技師,技師学校生徒にぜひとも読んでほしい1冊
女優の奥山佳恵さんが次男のダウン症を告白して注目されている.ダウン症は高齢出産ではリスクが高まり,20歳では1,667分の1であるが,30歳では952分の1に,40歳では106分の1に,そして45歳で30分の1にまで上昇することが報告されている.わが国では,年々出生率が低下しているにもかかわらず,ダウン症での出生児は増加し,1995年の約6人/1万人に対して2011年には約14人/1万人と2倍強に増加している.これは,母親の年齢別出生数が,1970年は25〜29歳が最多で,30〜34歳は25〜29歳の約1/3であるのに対して,2012年では30〜34歳が最多で,35〜39歳もその80%前後と高齢出産が多い(本書より).また,2011年の調査では,ダウン症の赤ちゃんは約2,300人生まれるはずであったが,実際に生まれたのは約1,500人であり,約800人は人工中絶で失われた赤ちゃんであると推測されている.このような事態となったのは,出生前診断の進歩であり,出生前診断は医学の進歩とともに日常的になり,誰しも出生前にわが子の性別だけでなく,病気の有無までも検査して知ることができる時代となった.
河合蘭氏の『出生前診断─出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』は,この出生前診断についての賛否とその手法を世に問うた本である.女性たちの出生前診断体験,“羊水検査”で出生前検査は始まった,1990年代の“母体血清マーカー検査”をめぐる混乱,超音波検査とグローバリゼーションの波,動き出した次世代の検査と歴史的変遷を多くの関係者への聞き取り調査により記載してある.女性たちの出生前診断体験での記載はまさに,出生前診断の問題点を克明に描き出している.そして,遺伝カウンセリングの重要性も述べている.これらは,事実を精緻かつ客観的に記載しているようで,筆者の出生前診断に関する熱い思いが感じられる.
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