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近年,成人病としての糖尿病に対する関心が非常に高まっている.職場における定期検診,人間ドックの普及によって,まだ自覚症状の出るに至らない軽症患者を発見できる機会が増えている.しかし糖尿病そのものについての認識は低く,糖尿病とは尿に糖が出る病気であり,尿に糖が出なくなればよいと考えている医療従事者も多い.実際に医師の中には尿糖陽性というだけで糖尿病と診断し,無用に経口糖尿病薬を投与し,低血糖を惹起している場合がある.これは低血糖が新聞,週刊紙の紙面をにぎわした一つの原因にもなっていると考えられる.しかし,今日においても糖尿病を正確に定義することは困難であり,糖尿病に対する考え方は少しずつ変化している状態である.以下に現時点での糖尿病に対する考え方をまとめてみたので,参考になれば幸いである.
激しい口渇と多尿があり,やせ衰えてついには死に至る病気は,すでに紀元前1500年ごろのパピルスに書かれていた.紀元2世紀にはAretaeusによって,今日いうような症状がまとめられ"diabetes"と名づけられた.その後,尿に糖が出ていることが証明され,それが高血糖によることが明らかにされた."diabetes mellitus"を日本語訳する際"糖尿病"としたため,尿に糖の出る病気として広く理解され,最近まで診断・治療の面で糖代謝異常のみに関心が集まりすぎるきらいがある.MeringとMinkowski(1889年)により,膵を摘出することにより糖尿病状態が作られることが分かり,BantingとBestのインスリンの発見(1921年)及びその優秀な治療効果が示されて以来,今日では糖尿病は"インスリン作用の絶対的または相対的不足に基づく代謝異常状態"と考えられるに至っている.
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