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日本動脈硬化学会では,動脈硬化性疾患のリスク別に脂質異常患者の管理目標を設定し,生活習慣の改善やスタチンなどの薬物による治療方針を定めている(表1)1).そこで管理目標に掲げられている項目の一つに低比重リポ蛋白コレステロール(low-density lipoprotein cholesterol,LDL-C)がある.世界的にもLDL-Cを管理目標としたスタチンなどを用いた治療によって,動脈硬化性疾患発症の減少に一定の効果が得られている.しかし,急性心筋梗塞で亡くなる人の数をみるならば,およそ3分の2に低下したに過ぎない2,3).これは脂質異常患者の管理の徹底だけでは十分とはいえず,さらなる危険因子,いわゆる“residual risk”の存在を示唆するものである.もちろん,動脈硬化症には慢性炎症性疾患および酸化ストレス性疾患としての側面があり,脂質異常症のみで語ることはできないが,脂質異常が大きくかかわっていることは明らかである.すなわち,脂質関連項目において“residual risk”を予知可能な検査項目の開発が期待されるのは当然の成り行きである.
近年,多くの疫学的研究によって非高比重リポ蛋白コレステロール(non-high-density lipoprotein cholesterol,non-HDL-C)はLDL-Cよりも心血管疾患発症の予見において優っていることが明らかにされた4~6).現在,脂質異常症のマーカーとして汎用される脂質検査には総コレステロール(total cholesterol,TC),HDL-C,LDL-C,トリグリセリド(triglyceride,TG)があるが,non-HDL-CはTCからHDL-Cを差し引く(TC-HDL-C)だけで容易に求めることができ,特別な検査を実施する必要がなく経済的にも今以上の負担がない点が汎用される要因になっている.現在,米国のNational Cholesterol Education Program Adult Treatment Panel III(NCEP ATP III)のガイドラインでは,治療によってLDL-Cの目標値に到達した後に,TG値200mg/dl以上の患者の治療における2次的な目標値としてnon-HDL-Cを位置づけている7).ちなみに,non-HDL-Cの管理目標値はLDL-Cのそれに30mg/dlプラスした値としている(表2).これはTGの基準上限である150mg/dlから,いわゆる正常な超低比重リポ蛋白コレステロール(very low-density lipoprotein cholesterol, VLDL-C)の上限を30mg/dlと設定した結果である8).病態生理学的には,LDLの動脈硬化作用は代表的なものであるが,そのほかカイロミクロン-レムナント,VLDL,中間比重リポ蛋白(intermediate-density lipoprotein,IDL),リポ蛋白(a)〔lipoprotein(a),Lp(a)〕などの関与も無視できないことは明らかである.すなわち,non-HDL-Cは動脈硬化惹起因子と考えられるこれらのアポリポ蛋白B(apolipoprotein B,apoB)を含むすべてのリポ蛋白を包含している点で,LDL-Cよりも優れたマーカーであると考えられる(図1).
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