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あとがき
本号の“疾患と検査値の推移”では慢性閉塞性肺疾患(COPD)について取り上げました.COPDの主な原因は喫煙です.言うまでもなく喫煙は,COPDや肺癌をはじめとする呼吸器系疾患のみならず,さまざまな疾患の危険因子となります.以前,たばこに含まれるニコチンがドパミン神経系に作用することによってアルツハイマー病の発症リスクを低下させるという説がまことしやかに流布しましたが,今ではしっかり否定されています.喫煙はアルツハイマー病の発症リスクを低下させるどころか有意に高めるということが,大規模なコホート研究によって明らかにされています.ご存知のように,たばこ産業から資金供与を受けた研究団体のでっち上げだったことも暴露されています.
最近,CDCは米国における肺癌罹患率が低下したことを報告しました.禁煙政策が実った結果であると実に誇らしげです.ところが,米国での紙巻きたばこの生産量は総生産量の約10%を占めています.米国国内では,禁煙政策を強力に推し進めながら,たばこは何処へ流れたのでしょうか? 日本が恰好の‘かも’になったことは言わずと知れたことです.米国がたばこのリスクを科学的に認知し,強力に禁煙を推し進めるなか,日本では1987年に米国産たばこへの関税が撤廃されました.その結果,米国からのたばこの輸入本数はそれを境に10倍近くまで増加し,米国のたばこ輸出の60%以上を占めるまでになりました.しかし,たばこのリスクが常識化してくると否応なしに禁煙は進みます.実際,日本におけるたばこの消費量は1990~2010年の20年間で約35%も減少しています.恰好の‘かも’も禁煙を進めた結果,たばこはダブつきました.そして現在では,貧しい国の空腹に喘いでいる子供たちの健康を蝕むようになっています.栄養失調に典型的な病的に膨らんだお腹をむき出しにした裸足の男児が,たばこを燻らせている衝撃的な写真を目にしたことがあります.医療費抑制あるいは震災復興財源確保のために,たばこ税を引き上げようという議論があります.確かに効果的であると思いますが,そんな写真を目の当たりにしてしまうと賛成の挙手を躊躇ってしまいます.凡庸な筆者が今自信をもって断言できるのは「喫煙は百害あって一利なし」だけです.
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