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一度経験した事象をすべて記憶できる天才もいる.しかし多くの人は,何かにたとえたり繰り返し学習しながら記憶することが多いであろう(図1).免疫機構は一度かかった病気を何十年も記憶できる天才で,再びその病気に感染しないようにわれわれの身体を防衛している.しかし,この免疫記憶のメカニズムは初感染した際に免疫応答を引き起こした特異抗原が長期間残っているためなのか,または絶えず侵入する抗原のなかで初感染時の特異抗原と交叉して常に合図を出してリンパ球を刺激しているものなのか,さらに抗原が残存しなくとも記憶できる特殊な細胞が長期間存在することによるものなのか多くの論争がなされてきた.しかし,最近では特殊な免疫記憶T細胞およびB細胞の存在が徐々に明らかにされてきた.
免疫記憶細胞
初めて侵入した病原体は好中球,マクロファージや樹状細胞などの食細胞に貪食される.しかし,この数日間には免疫応答は起こらない.それは侵入してきた病原体に対する特異的なリンパ球(T細胞やB細胞)がまだ準備されていないからである.病原体を貪食した食細胞は近傍のリンパ組織に移行し,まだ抗原による感作を受けていないナイーブT細胞(未感作T細胞)に抗原提示を行って初めて一次免疫応答が開始される.この一次応答において二種類の増殖したクローン細胞(自分と同じコピー細胞)群が誕生する.一つは,直ちに病原体の防御に立ち向かうエフェクターT細胞(細胞障害性T細胞)とエフェクターB細胞(形質細胞),そして次回に感染を防御するための記憶T細胞と記憶B細胞である.エフェクター細胞の活躍で病原体がいなくなった後では免疫応答を維持するために必要な抗原がなくなるのでほとんどのエフェクター細胞は死滅する.しかし,記憶T細胞および記憶B細胞は残存して再感染に備えている.記憶細胞のうち少数のものは細胞分裂をしているがほとんどは細胞分裂を止めて休止期にある(図2).再感染により免疫記憶細胞が起こす免疫反応を二次反応といい,免疫記憶細胞は再会した抗原に対しはじめの免疫応答よりも迅速にかつ強く特異的に免疫応答が起こる.一次応答では主にIgM抗体が産生される.二次応答でも最初の数日間は少量のIgM抗体が作られるが,それ以降ではクラススイッチして主にIgGが作られる(図3).
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