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1965年Uristは脱灰凍結乾燥骨を同種の動物の筋肉内や皮下に移植すると数週間で同部に軟骨性骨化が誘導されることを発見し1),その原因となる物質はある種の蛋白質であることをつきとめ,それに骨形成因子(bone morphogenetic pro―tein:BMP)と名づけた.そして今,この骨形成因子(骨誘導物質)は最近の急速に進歩しつつある精製・微量分析および遺伝子工学的手法によりその正体の解明が進むとともに臨床応用が期待されている.
骨誘導物質は塩酸グアニジンや尿素でしか骨基質から溶解抽出することができず,しかも非常に微量な物質であるため,多くの研究者によって精製が試みられてきたが,長い間その本体は不明であった.しかし,この1~2年の間にいくつかのグループが精力的に骨誘導物質の同定に取り組み,あいついで成功している.まず,最初に成功したのはアメリカのボストンにあるGeneticsInstitute (GI)社のWozneyらのグループ2)で,彼らは牛の骨粉から精製した蛋白質のアミノ酸配列から推定されるDNAプローブを合成し,最終的にヒトのcDNAライブラリーから4種類のcDNA (BMP-1, BMP-2 A, BMP-2 B, BMP-3)を分離し,その構造を決定した.その直後,NIDRのReddiらのグループ3)は,彼らがosteogeninと名づけていた骨誘導物質のアミノ酸配列を決定したが,それはWozneyらのBMP-3と同一の蛋白質であり,また東京医科歯科大の大井田を中心とするわれわれの研究グループ4)でもアミノ酸配列を決定したところ同様にBMP-3と同一であった.さらに最近のSampathのグループ5,6)も,精製の結果BMP-2 Aと新たにosteogenic proteinone(OP-1)と名づけた骨誘導物質の単離に成功している.これらの物質は遺伝子工学的に作られたリコンビナント蛋白質でも骨誘導能が検査され,その結果少なくとも骨にはBMP-2 A, BMP-37)およびOP-16)の3種類の骨誘導物質が存在することが明らかになった.これらの骨誘導物質は細胞の分化誘導に重要な役割を果たしている蛋白質として注目を集めているtransforminggrowth factor-β(TGF-β)と30~40%の相同性があることがわかり,TGF-βのスーパーファミリーに属することが示されている.TGF一β自体も骨芽細胞によって産生され,さらに骨基質のみならず軟骨基質中にも存在し軟骨や骨の分化機能の発現に深くかかわりを持つことを示唆するとの多くの報告から,今後,TGF-βスーパーファミリーの研究を通して未分化間葉系細胞から軟骨・骨への分化誘導という非常に重要で興味ある問題の解決が期待される.
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