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ステロイドホルモン合成系において,ヘム含有蛋白であるチトクロームP-450は,NADPH依存性の電子伝達系のterminal oxidaseとして種々の水酸化反応,C-C結合のcleavageを触媒することが知られている.副腎,卵巣,精巣などにおいての合成経路では,それぞれのステロイドホルモンの化学反応が,おのおのに特異的なチトクロームP-450によって触媒される.近年,これらチトクロームP-450が精製,純化され,特異的な抗体,cDNAが得られるようになり,これらを用いてステロイドホルモンの合成,代謝を検索することにより,次々と新たな知見が報告されている.本稿では,これらの内から,ステロイドホルモン合成酵素欠損症および病理組織学的ステロイド合成の局在性に関する最近の進歩を紹介する.
ステロイド合成に関するチトクロームP-450に対するcDNAが前述のように得られ,これらの遺伝子の染色体上の位置,分子構造も表1に示すように明らかにされてきている.ところで,これらステロイド合成に関する酵素の欠損症,すなわち先天性副腎過形成症候群は決してまれな疾患ではなく,先天性内分泌疾患の内ではもっとも重要なものの1つである.この疾患は,発見が遅れると患者が生命の危険にさらされたり,成長,性発育の障害が著明に認められるため,これらのことを最小限に防止させるためにも早期発見,早期治療がきわめて重要となる.また,特に21-水酸化酵素欠損症の場合,母体にステロイドを投与することにより障害発生を予防できる可能性もあるので,保因者および胎児の遺伝子診断が注目されている.そこで,これらチトクロームP-450に対するcDNAプローブを用いることによって,21水酸化酵素,11β-水酸化酵素欠損症を中心に種々の遺伝子異常が報告されており,従来から行われていたHLAタイピング,羊水中のステロイドホルモン値の測定とあわせて,羊水細胞あるいは絨毛組織由来のDNAを,両親および家系中の発症者のDNAとあわせて,これらチトクロームP-450に対するプローブを用いて解析することにより,より確実な出生前診断を行うことが可能になってきた.
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