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正常P波の成り立ち
心電図波形におけるP波は,心房の興奮過程を示す波形である.正常P波は,洞結節細胞の自発興奮が移行組織領域(perinodal area)を経て伝わる右房の興奮とBachmann束を介して伝わる左房の興奮によって形成される.心房の興奮は洞結節の存在する高位右房から波紋状に下方へと向かう.右房内には伝導に適した結節間伝導路と呼ばれる経路(preferential pathway)を介して房室結節へと至る.左房の興奮は,洞結節細胞によって生じた右房の興奮が,右房前方から右上肺静脈付近に伸びるBachmann束を介して左房の左房前上方向へと伝導し,分界稜を経て到達した下方からの興奮と衝突する.したがって,P波の始まりは右房の興奮を表し,前半2/3の成分は右房の興奮,後半2/3の成分は左房の興奮を反映し,両者の融合によってP波は形成される.
洞結節は上大静脈と右心房の接合部にあるため,心房興奮のベクトルは四肢誘導を反映する前額面においては左上から右下に向かう.前額面P波の電気軸は0°〜+70°にあり,多くは+45°〜60°であるためⅠ,Ⅱ誘導で陽性を示し,aVRで陰性となる.Ⅲ誘導は陽性,二相性,陰性のいずれの極性にもなりうる.二相性は7%程度にみられ,その初期成分は陽性である.aVL誘導の極性もさまざまであるが,通常陰性となることが多く,二相性となる場合の初期成分は陰性を示す.aVF誘導も通常陽性であるが,しばしば二相性あるいは平定な極性を示す.正面からみると右房は前胸部に位置しており,左房は右房の左後方に位置するため,最初に前方に向かう右房の興奮に続いて後方の左房に興奮は向かう.そのため,V1およびV2誘導では,しばしば陽性-陰性の二相性を示し,それぞれ右心房,左心房の興奮を反映する.V3〜V6誘導では,心房興奮は右から左へと向かうため,陽性となる.通常第Ⅱ誘導のP波の幅は3mm(0.12秒)未満で,P波高は2.5mm(0.25mV)未満である.またV1誘導においては,P波高は2mm(0.2mV)未満であり,陰性成分の幅と深さの積(Morris indexまたはP terminal force)は0.04未満である1).
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