今月の主題 院内感染制御
巻頭言
今後の感染制御について―有効性の医療(EBM)からリスク管理の医療(PSM)へ
武澤 純
1
Jun TAKEZAWA
1
1名古屋大学大学院医学系研究科機能構築医学専攻生体管理医学講座救急・集中治療医学
pp.589-590
発行日 2005年6月15日
Published Date 2005/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542100222
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1. Evidence-based院内感染対策の問題・課題・限界
EBMは専門職や権威者などが提供する科学的根拠の脆弱な医療を排除して,臨床疫学が提供する強い根拠に基づいて,医療の標準化(その結果として患者転帰の改善)をもたらした.また,そのことによって医療提供システムに大変革を引き起こしたと評価されている.しかし,一方ではEvidenceと名が付けば,すべてを信じ,臨床経験や患者の嗜好までも排除する人種の登場を招いたのも事実である.そこでは,EBMの神髄であるcritical appraisalが忘れ去られ,Evidenceがあるかないかの形式的な議論が横行することとなる.
薬剤を含めて,単独の医療行為でEvidenceが存在するものは多くても20%といわれている.それ以外の医療行為や単独医療行為の複合されたものではEvidenceは全く存在しない(ましてわが国から発信された院内感染に関する論文で根拠の強いものは皆無に近い).つまり,われわれの日常医療の80%はいわゆるEvidenceのない世界で行われている.さらに困難な問題は,EBMでは,医療工程の評価は患者アウトカムまたはそれにつながるプロセス指標で行う点である.標準化の不十分な医療を前提に患者アウトカムを評価基準として臨床試験を行うと,有意差をもった結果が出ることはほとんどない.仮に有意差が出たとしてもNNT(number need to be treated)は莫大な数となり,事実上臨床現場に導入する価値はないと判定される.
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