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■はじめに
現在,厚生労働省ではわが国の医療情報の活用を促進することを目的に,医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループが組織され,医療情報ネットワークの基盤の在り方(主体,費用,オンライン資格確認等システムや政府共通基盤との関係,運用開始時期など)および技術的な要件について調査検討が進められている(図1)1).ここではまず3文書(診療情報提供書,退院時サマリー,健診結果報告書),6情報〔傷病名,アレルギー,感染症,薬剤禁忌,検査(救急,生活習慣病),処方〕について,標準仕様を定め,それをHL7FHIRで記述することで,医療機関相互の情報交換を可能にすることが予定されている.図1の右下の部分は既存の仕組みで,オンライン確認システムでマイナンバーを介して支払基金などに集積されているレセプト情報,特定健診・特定保健指導が紐づけられることになる.これによりPHR(Personal Health Record)の実装も一体的に進むことになると考えられる.
厚生労働省のこのプロジェクトにおいては,「医療DXも踏まえた電子カルテ情報を共有できる仕組みの実装方法」を検討することが目指されているが,この背景には創薬など新しい産業創成への活用に関する期待がある.この目的のためには臨床系の各学会が行っている症例登録と同レベルかそれ以上の情報をサマリーとして作成し,データベース化することが必要となる.仮に各学会の検討を基に検討項目が決められ,それが全ての医療機関に要求されるとすると,その作成作業の負荷が大きくなりすぎ,情報作成は進まないだろう.これはHER-SYSで多くの医療機関が経験したことである.同じ轍を踏まないために,すでに作成されている情報を利用する形で整備を進めることが実際的であると筆者は考えている.
また,構築される医療情報基盤は,各医療機関の業務の効率化に資するものでなければ,その活用は進まないだろう.それは地域医療再生基金によって鳴り物入りで導入が試みられた地域共通電子カルテのほとんどが,現在稼働していないことからも明らかである.参加する医療機関にそれを使うことのメリットが実感されなければ,その活用は進むことはない.
さらに高齢化の進展に伴い,医療と介護の複合ニーズを持った患者が増加していることを考えれば,構築される情報基盤は介護にも対応したものでなければならない.介護領域に関しては用語の標準化が進んでおらず,いわゆる業務記録システムである「介護電子カルテ」に記載された内容をHL7FHIRで交換することは,現時点では相当程度の困難が伴う.
このような問題をクリアするためには,現在こうした情報の利活用を実際に行っている仕組みを参考にすることが有用である.筆者の知る限り,地域レベルで他施設が医療と介護の情報共有を実働させている仕組みとしては,特定非営利活動法人 道南地域医療連携協議会(道南MedIka:以下,MedIka)が最も優れている注1.そこで本稿ではその中心的役割を担っている社会医療法人 高橋病院と市立函館病院のインタビュー結果を基に,その概要と将来の発展性について論考してみたい.
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