- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
- サイト内被引用
■はじめに
医療制度の国際比較研究の結果として,強いプライマリケアシステムを有している国は,医療アウトカムが優れている上に,費用対効果が高いという知見が出されている1).その代表的な国の一つがカナダである.カナダではMedicareと総称される税金に基づく皆医療保障制度下で,家庭医を中心とした医療提供体制の整備が強化されている.
少子高齢化の進むわが国では,多様な慢性疾患を持ち,介護や生活支援のニーズもある高齢者に対して,いかに効率的に質の高い総合的サービスを提供していくかが課題となっている.この総合性は診療領域の総合性に加えて,医療・介護・生活ケアの総合性やサービス間の連続性を要求する.例えば,認知症と糖尿病がある87歳の高齢女性が,自宅で転倒し股関節骨折を受傷してしまい,急性期病院の整形外科で股関節置換術を受けたとする.外科手術を受けるところまでは整形外科の患者であるが,術後は認知症と糖尿病に対応しながらリハビリテーションを行い,退院調整を行うことになるだろう.この時に病棟で主治医機能をもって患者の診療に当たるのは,ホスピタリストとしての総合医が適切である.済生会熊本病院では,こうした問題意識に基づいて,病院総合医が院内主治医として機能している2).本稿で説明するカナダ・ケベック州では,医療と社会サービスを総合的に提供する中核に家庭医が位置付けられており,家庭医が病院医療や高齢者施設における医療に体系的に組み込まれる仕組みとなっている.この取り組みは,わが国の今後の病院医療の在り方を考える上でも参考になると筆者は考えている.
本稿では文献調査と訪問調査に基づき,カナダ・ケベック州のJewish General Hospitalにおける家庭医の活動を中心に紹介する.
Copyright © 2020, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.