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現代に於ける醫療の意義
千種 峯蔵
1
1厚生省関東信越医務出張所
pp.3-7
発行日 1950年10月1日
Published Date 1950/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541200209
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医療の意義の変遷
科学的医学が出現して以来の,医療上主として扱つた対象とか,一般に領解された医療観念とか,いわば医療の意義の変遷を辿つて見ると,大体4つの時期に区劃することが出来ると思う。即ち,第1期は,傷病そのもの,もつと端的に言うならば,人体の病変を対象とした時代,第2期は傷病をもつた人間,即ち個人としての傷病者を対象とした時代,第3期は,社会的係累の下に生活している傷病者を対象とした時代,第4期即ち現代は,社会人としての傷病者を対象とするばかりでなく,その社会の構成員1人残らずに医療を均霑せしめ,更に,医療と予防の区別を設けることなく,生活保障を境極の目的とするところの,生活保障としての医療の時代ということが出来ると思う。
医療は,動物の治療動作や,原始人類の経験的治療行為で証明されるよううに,本能的要求であるから,科学的医学の時代に進んでも,傷病そのものの診断や治療を主題としたことは,当然の理である。しかし傷病者は生きた人間であり,夫々の考をもつているのであるからして,自分の傷病の治療を,全然医師に一任して,何等の不安も不満も感じないという人は少いであろう。人は自分の傷病については,たとえ誤りであろうと,取越苦労であろうと,夫々その人なりの解釈と見通をもとうとする。他から入智恵されて動搖する場合もある。又医師の治療上の指示が,傷病者の現実生活に即応しない為に,到底それを遵守出来ない場合も起つて来る。
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