連載 リレーエッセイ 医療の現場から
人生を見つめるきっかけとしてのHIV感染症
安尾 利彦
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1独立行政法人国立病院機構大阪医療センター エイズ予防財団
pp.781
発行日 2005年9月1日
Published Date 2005/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1541100085
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筆者は現在,HIV 医療の現場で HIV 陽性者やその家族,パートナーらに対して心理的な支援を提供する臨床心理士として働いている.
周知の通り,現在わが国における HIV 感染者数は増加の一途を辿っている.1980年代後半の「エイズパニック」の頃に比べれば,治療法は飛躍的な進歩を遂げており,HIV 感染症は今や慢性疾患の一つといわれるまでになった.とはいえ,この疾患につきまとうスティグマは未だ根強く,そのため陽性者自身やその関係者らが孤立し,閉塞的な状況に陥りがちである.また,抗 HIV 薬による治療には副作用がつきもので,長期にわたって厳密な服薬行動が求められるため,日々の生活自体が強く制限を受けるように感じられることもある.さらに性感染症であるがゆえに,恋愛や性的関係を巡って葛藤が生じがちである.このような複雑な課題を目の前にし,これからの人生への見通しが立たない不安に駆り立てられる陽性者は少なくない.
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