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ビタミンAの缺乏に因り皮膚に一定の變化が現れる。即ち、「皮膚は一般に乾燥し、粗糙となり、特に毛孔性に角化する。皮膚腺は萎縮し、そのため皮膚は一層ザラザラして來る。」この状態をPhrynoderma又はtoad skinと呼び、1931年Frazier-Huが初めてこれに注目して以來Lowenthal, Nicholas, Youmans-Corlette, Lehman-Rapaport等の報告があるが、華北、印度、アフリカでの觀察は夜盲症、乾燥性眼炎、角膜軟化症等、A缺乏性の眼所見を伴ふのに、英米のものは皮膚症状を主とし、眼に關しては暗順應檢査で初めてその閾値の上昇を知る程度である。皮膚症状として主要なのは毛孔性角化であるが、一方從來からの獨立性疾患で毛孔角化の現象ある毛孔性紅色粃糠疹にもPhrynodermaと同様ビタミンAの奏効することはPettler, Brunsting-Sheard, Weiner-Levin, Lowenthal等の指摘するところ、著者亦その3例にビタミンAの奏効せるを經驗し、橋本、中島と共にこれを報告したが、その中にも記した樣に尋常性魚鱗癬に併發した掌蹠角化症が毛孔性紅色粃糠疹の掌蹠角化症と共に、A投與によく反應して輕快せるを認め、一般に後天性の掌蹠角化症にはA缺乏症に關係するものがあるのではないかと考へる樣になつた。
症 例 症例1:村松某女、30歳、未婚。 初診:昭和22年11月6日。 生來健康。女學校頃迄は偏食で野菜、油類は嫌ひであつた。月經順調。22,3歳頃から手足の荒れが目立ち、殊に多にひどい。最近掌蹠皮膚が硬くなつて來て、突張つた感じが強い。生來手足が冷え易く、毎多凍瘡にはならぬが、皹裂を生ずる。本22年9月から頤部、口圍殊に下口唇の下方が痒く、掻くと腫れて蕁麻疹樣丘疹を生じた。初めの中は放置すると消失したが、次第に毛嚢性丘疹として殘存する樣になつた。同樣の發疹は次第に耳前部、前額外側、眉毛部にも生じ、白い脂肪樣のものが壓出される。本年8月頃から眼がかすみ、一頃は羞明、流涙があつた。又下腿に疲勞感、重感がある。
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