書評
「連合野ハンドブック 完全版—神経科学×神経心理学で理解する大脳機能局在」—河村 満【編】
北澤 茂
1
1大阪大学大学院医学系研究科生理学講座
pp.812
発行日 2021年7月1日
Published Date 2021/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416201840
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私は生理学の教師をしているのだが,「連合野」には苦手意識があることを告白する。「感覚野」や「運動野」に比べて「連合野」のなんと教えにくいことか。『医学大辞典』(医学書院)によれば大脳連合野とは「第一次感覚野と第一次運動野を除く大脳皮質領域」であるという。つまり「教えやすい領域を除いた残り」が連合野なのだ。しかし,本書のおかげで,「連合野」が私の得意分野に生まれ変わるかもしれない。
まず,序章が素晴らしい。「連合」という言葉に込められた思想の歴史が,19世紀後半のマイネルト(マイネルト基底核のマイネルト!)にさかのぼって活写されている。序章を読んで目を見張ったのは,マイネルト,フレクシッヒ,デジュリン,ゲシュヴィンドという連合野の巨人たちが皆「線維」に注目していた,という事実である。マイネルトの自著の表紙に掲げられた大脳内側面には剖出された連合線維が描かれていた。フレクシッヒは線維の髄鞘形成の順序に着目して脳地図をつくった。デジュリンは自身の脳解剖アトラスに白質内の神経路を精緻に描き込んだ。ゲシュヴィンドはフレクシッヒの「連合」概念を引用して連合線維の切断によって生じる臨床症候を「離断症候群」として理論化した。
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