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糖尿病医療学入門―こころと行動のガイドブック
門脇 孝
1,2
1東京大学大学院・糖尿病・代謝内科学
2東京大学医学部附属病院
pp.488
発行日 2011年11月1日
Published Date 2011/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1415101245
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糖尿病の治療は,異なる作用機序を有する多くの新薬が開発され,治療のエビデンスも集積されてきたにもかかわらず,依然として患者の主体的参加がその成否をにぎっている.そこで糖尿病の治療では,患者が病気と向き合い,闘う意欲と能力を持っている,という考え方に立脚して,それを引き出すための患者支援の技法,すなわちエンパワーメントが重要となってくる.著者の石井均氏は,このエンパワーメントを糖尿病治療における標準的治療法に具体化する努力を営々として続けられてきた.それが,心理分析,認知行動療法,変化ステージモデル,等々である.石井氏は,これらのモデルや技法を駆使しながら,本書では,その上位の学問体系として,「糖尿病医療学」という概念に行き着いたことを述べている.
糖尿病の科学の進歩は著しい.しかし糖尿病治療は従来の科学では扱いきれない部分をたくさん持っている.それを,石井氏は,科学を超える「糖尿病医療」というパラダイムとして提案している.そこでは,医療者からの情報提供と患者の自発的選択に支えられた医療者―患者関係,相互参加が必要不可欠であり,石井氏はそれを「治療同盟」と呼んでいる.そして「治療同盟」では,医療者―患者関係における強固な人間的な信頼的関係を築くことが,治療をうまく進める鍵となる.私なりに解釈すれば,糖尿病学・糖尿病研究は,糖尿病の科学,真理を追究するサイエンスを担保するものであり,「治療同盟」はいかによく生きるか,自己実現を追究するヒューマニズムを担保するものである.そして前者の科学知と後者の人間知の相互作用こそ,本書で石井氏が提唱する「糖尿病医療学」の本質ではないか,と考えた.
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