シネマ解題 映画は楽しい考える糧[65]
「ニュースの天才」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学分野
pp.850
発行日 2012年11月15日
Published Date 2012/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414102665
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ニュース捏造事件に見る人間の真の姿
実話を基にした,実在の人物が実名で登場する物語.伝統と権威ある政治雑誌「New Republic」最年少記者スティーブ・グラスは,数年間で数多くのスクープ記事をものしてきました.彼の書くストーリーは生き生きとして興味深く,いつも読者の心を掴むのです.雑誌社の編集会議でも大人気.しかしコンピュータ・ハッカーに関する記事をきっかけに記事の捏造疑惑が持ち上がり,スティーブが記事をでっち上げていたことが明らかになります.スティーブはクビになり,最終的には彼が執筆した41の記事のうち27が捏造であったことが明らかになったのでした.人・団体,場所,事件の内容,事件そのもの,ホームページ,記録ノートなどあらゆるものが捏造されたのです.
本作品はマスメディアの世界の捏造事件を取り上げたものですが,最近は医学および生命科学領域の研究者の不正行為に関しても社会的な注目が集まっています.国内では頭に今思い浮かぶだけでも,H大,T大,O大,W大などの科学者が不正行為を行っていた事件がありました.海外でも,韓国で起きたヒトクローン胚によるES細胞捏造事件,米国のベル研究所の超伝導研究の論文捏造事件などが大きな話題となりました.後者の若手研究者シェーンは,16本の論文において捏造を行ったのです.生命科学の領域のみならず,化石人骨や石器発見などの絡む考古学領域の不正行為も少なくありません.このような状況を受けて,研究者の不正行為は研究倫理のなかでも重要教育項目として近年大きなウエイトを占めるようになってきました.もはや他人事ではありません.
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