Editorial
2007年の「岸辺のアルバム」
松村 真司
1
1松村医院
pp.275
発行日 2008年4月15日
Published Date 2008/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101384
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2007年9月7日.この日午前0時ごろ,台風9号,アジア名フィートウが伊豆半島南部に上陸し,その後まもなく北東へ速度を上げながら神奈川県西部を通過した.東京23区ではさほど風雨は強くなかったが,奥多摩周辺では降り始めから600mmを超す大雨を記録した.この地域を源流とする多摩川は急激に増水し,早朝には堤防決壊の可能性のきわめて高い危険水位を突破した.
この地域をふるさととする私を含む地元の人たちは,この川がかつて何度も牙をむいたことを伝え聞いている.私が記憶している限りでも2度水害が発生し,そのうち1回は狛江水害と呼ばれ,その映像は山田太一による名作ドラマ「岸辺のアルバム」のクライマックスシーンに使われている.水害が起きた1974年当時,私はまだ小学生だったが,自宅のすぐ近くまで水が来ているのを両親と見に行ったあと,新しい家が濁流に呑み込まれていく中継映像をテレビで食い入るようにして見た記憶がある.幸い,その後大きな水害は発生しておらず,今では瀟洒なマンションがいくつも建っている.しかし地元の人たちはそこがかつて「水が来たところ」だと知っている.何十年に1回の自然災害でも,被害の記憶はいつまでも残る.
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