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サブプライムローン問題にゆれる近年の米国であるが,2006年11月から滞在していた米国は日本よりも贅沢な生活を送っているように目に映った。M. D. アンダーソンの泌尿器科にpostdoctoral fellowとして勤務していた間,米国,カナダ,アイルランド,シンガポールの同年代の泌尿器科医師たちと研究を共にした。12人ものフェローがいたのでその生活はさまざまで,400坪くらいの広い一軒家を購入しているフェローもいれば,大学の宿舎を借りている者もいた。アイルランド,シンガポールのフェローは私と感覚が似ていて,「米国のフェローたちは派手に生活してるな」と言っていた。そもそも,米国の医療業界を支える収入面が完全に患者の自己負担に支えられていて,赤字にならないシステムが存在しているおかげでか,医師を取り巻く環境はまったく日本と異なっている。ちなみに,アイルランドとシンガポールでは日本と同じく保険医療制度で支えられており,大学病院の薄給と,遅くまで毎日働く環境も似ているようであった。
テキサスの泌尿器科医師は全員早起きで朝の5時半に病院に来て,膀胱全摘をして執筆活動をして夕方6時には帰宅するのが典型的であった。このゆったりのペースでどうしてあれだけ多くの論文が書けるのかと不思議に思っていたのだが,これは医師をアシストしてくれるコメディカルの多さに由来しているようである。病院では看護師だけでなくPA(physician's assistant)という資格の業種があり,彼らが医師の行う多くのことを代行してくれるようである。なんとassistant professor(日本でいう助教,昔の助手)以上の管理職のみならず,フェローやレジデントにも当直業務がないということであった。PAが実際の当直を行っており,点滴や必要な投薬も医師に代わって行い,何かあるときだけ電話でレジデントに聞いてくるということである。研究面でも日本とは大きく異なり,実際の研究を行うのはフェローまでで(それでもリサーチアシスタントが泌尿器科に10人前後もいて,彼らが多くの実務をこなしていた),統計処理もinstituteが統計学者を雇っていて,臨床の患者データ集計もリサーチナースが担当し,さらに,assistant professor以上のfacultyには個人秘書がついて論文の投稿もやってくれるというゴージャスさである。ちなみにM. D. アンダーソンではPAの年収が10万ドル(1,000万円)前後,泌尿器科のスタッフはassistant professorは20万ドル(2,000万円)前後もあり,わが国の現状と比べるとため息しか出ないような差があった。ちなみにフェローの給料は3~4万ドル程度で,日本の助教を取り巻く環境は実際には米国のassistant professorに及ばず,フェローに近いものであろう。
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