私の經驗
私の眼科診療室
水谷 豊
pp.610
発行日 1953年10月15日
Published Date 1953/10/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410201611
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私は以前から,眼科の診察治療という面で1つの不滿を持つていた。それは視力の不自由な患者に對して,今迄の眼科の診察治療のあり方が,すこぶる不親切であつた。それが設備のよい大病院程著しい。例えば,先ず患者は診察室に入ると,醫師の前に坐つて問診を受ける。一應の問診を受けると檢査になるが,これが數ヵ所の場所で檢査を受けなければならず大變である。第1に視力檢査の場所迄行き,其處で視力の檢査を受ける。それが終ると最初明室で前眼部が檢査され,屈折異状や前眼部以外の疾患は更に暗室内へ連れて行かれ,暗室檢査を受ける。暗室檢査が終ると,再び別の場所に連れてゆかれて,視力の再檢査や視野,眼壓其他の諸檢査を夫々に受ける。總ての檢査が終つてから治療室に入り,始めて治療を受ける始末である。
以上の最初の問診から治療迄に,患者は多くの歩行を強いられ,時間の浪費も多く非能率的である。一體視力障碍があつたり,甚しい眼疾のある患者を取扱う眼科醫は,恰も内科醫が重病人に接する樣な態度を持つべきで,身體が健康であるからといつて,患者の行動の不自由から來る苦悩を忘れてはならない。扨て,これらの不滿を解消するためには如何樣にしたらよいか。そのためには,患者を動かさずに檢査,處置が出來るように考えればよいわけである。
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