薬の臨床
婦人の抑うつ症候群に対するDoxepin Hydrochloride (sinequan)の臨床治験
長谷川 直義
1
Naoyoshi Hasegawa
1
1秋田大学医学部付属病院心療センター
pp.171-180
発行日 1972年2月10日
Published Date 1972/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409204567
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はじめに
産婦人科方面にも身体症状を訴えながら,その背後に抑うつ気分や悲哀感などが多少とも看取される症例が存在する。このような抑うつ症状は内因性うつ病だけでなく,ときには自律神経失調症や心身症などにもみとめられる。とくに月経前や産褥期,あるいは更年期などには,しばしば観察されるものである。したがつて,われわれは不定愁訴症状を伴つていても,とくに抑うつ気分,悲哀感,意欲気力の低下,自主性欠乏,持続性低下,決断力低下,社交性の低下,言語抑制,絶望感,厭世感などのみられるものを婦人の抑うつ症候群とよんで扱つている。これらのうちには今日,仮面デプレッション(masked depression)とよばれている内因性うつ病ないしは軽症うつ病の症例はもちろん,神経症性のもの,あるいは症候性のものまで種々のものが含まれている。これらの症例は,従来,的確に鑑別診断がなされないまま,治療されてきた点もみられないわけではない。しかし,近年,これらの疾患に対する診断法が整理され,一般医家もこれにつよい関心をもつにいたつた。このとき,われわれは台糖ファイザー株式会社の好意によりDibenzoxepin誘導体に属する新しい向精神薬の一つであるDoxepin hydrochloride (Sinequan)の提供をうけ,本剤を産婦人科外来に訪れたいわゆる仮面デプレッション,心身症および自律神経失調症などの患者に試用する機会を得た。
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