特集 産婦人科手術の基本手技・Ⅰ
縫合,接着
西村 敏雄
1
,
松浦 俊平
1
Toshio Nishimura
1
1京都大学医学部婦人科学産科学教室
pp.323-329
発行日 1971年4月10日
Published Date 1971/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409204390
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I.縫合の目的と縫合材料
縫合の目的は,手術創あるいは分娩による産道損傷などで断裂した組織や皮膚に再び連続性を回復させて,一次治癒を営ませることにある。つまり,縫合することによって,接着した両創縁の間隙が,線維芽細胞,線維細胞,膠原線維などを含んだ肉芽組織で結合され,上皮で被包されるまでの一定期間,創縁に抗張力を保たせるためである。
この際,組織の種類やこれにかかる張力,あるいは血行状態など局所的特殊性によつて,最も適した縫合材料と縫合方法が選ばれることとなる。一般に非吸収性縫合材料としては絹糸が,また吸収性縫合材料としてはカットグートが用いられる。絹糸は摩擦抵抗が大で結紮操作に都合よく,組織内でも過度にゆるむことがない。しかし絹糸自体は異物反応は比較的少ないのであるが細菌が着きやすく,時に縫含糸化膿や縫合糸瘻の原因となることもある。一方カットグートは,比較的早く組織内蛋白分解酵素の消化作用を受けて吸収されるため,4〜5日でほとんど抗張力を失ない,その間の浸出液の誘出や細胞浸潤も絹糸に比し高度である。しかし,吸収性という大きな得点があるため,埋没縫合などに賞用される。その他,銀,白金などの金属糸やクリップ,ナイロン,テトロンなどの合成線維糸などでは,消毒は完全で組織反応も少ないが,絞扼力や価格の問題が残り,またアロンアルファなどの合成樹脂接着剤も抗張力が充分でなく,なお単独で広く使用されるには至つていない。
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