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はじめに
図1は筆者の前任地である京都医療センターにおいて腹腔鏡下手術を受けた子宮内膜症症例を臨床進行期(revised AFS classification)別および手術実施年期別に示したものである.1991~1995年期ではrAFS─IIIやIVといった進行症例は少なかったのであるが,年期が進むにつれて進行症例数が増加しており,2002~2004年期に至ると腹腔鏡下手術を実施したものの大多数が進行症例であった.臨床進行期分類を行う際の得点表を参照すれば明白なのであるが,rAFS─IV症例の大多数およびIII症例のかなりの部分が子宮内膜症性のダグラス窩閉鎖を伴っている.
臨床進行期群別の平均年齢に関して,1991~1998年期症例について検討した際には統計学的差異を認めなかったのであるが,1999~2004年期症例について検討した成績は以下のごとくであった.すなわち,rAFS─I : 29.2±4.8歳(n=18),II : 30.2±6.1歳(n=33),III : 31.5±5.6歳(n=101),IV : 32.9±6.1歳(n=153)であり,臨床進行期と年齢との間に正の相関性が認められた(p<0.05).子宮内膜症が進行性の疾患であるという仮説に則れば,年齢と臨床進行期とがリンクするというのは当然のことであろう.また,1991~1998年期症例の平均年齢は29.8±5.3歳(n=238)だったのであるが,1999~2004年期症例のそれは31.9±6.0歳(n=305)であった.これら2つの母集団の平均年齢は明らかに異なっており(p<0.001),最近では高年齢の症例が増加してきている.女性の晩婚化などの社会現象が進んでいる現状をふまえると,高年齢で進行した子宮内膜症例が増加していくのは避けられない現象と思われる.図1に示すような傾向は,京都医療センターだけのものではなく全国的なものであると思われる.したがって,進行症例,換言すればダグラス窩深部子宮内膜症に対する的確な対応がわれわれにとって今後ますます重要な命題となると考える.
さて,ダグラス窩閉鎖を伴うような深部子宮内膜症の診断に直腸診は欠かせない.直腸診によりダグラス窩に圧痛を伴った硬結を触れ,子宮可動性制限があればほぼ確実にこれを診断できる.ダグラス窩深部子宮内膜症症例の多くは非常に強い臨床症状を有している.月経痛,排便痛,性交痛などである.妊孕能低下も子宮内膜症に付随する臨床症状である.これらの臨床症状は罹患女性のQOL低下をもたらす.低下したQOLを回復する治療法は薬物療法と手術療法とに大別される.子宮内膜症,特に子宮内膜症性疼痛に対する薬物療法については他章で述べられているので本稿ではこれは省略する.ただ,現時点ではいずれの薬物療法も子宮内膜症を治癒させるものではない.
子宮内膜症に対して治癒的効果を有するのは手術療法である.われわれは子宮内膜症病巣の完全除去を腹腔鏡下子宮内膜症手術のゴールに設定して治療している.子宮内膜症を腹腔鏡下に除去すると,疼痛などの臨床症状は改善し1),低下していた妊孕性が回復する2).図2は腹腔鏡下手術後の妊孕性を手術年期群別に検討したものである.前述のごとく,手術年期が進むにつれて進行子宮内膜症症例が増加しているのであるが,術後の妊孕性については群間の差異が認められない.すなわち,たとえ進行した子宮内膜症症例であったとしても,子宮内膜症を腹腔鏡下に除去することにより妊孕能が回復する.
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