今月の臨床 妊婦の感染症
妊婦の感染─胎児への影響と対策
5. 風疹
久保 隆彦
1
1国立成育医療センター周産期診療部産科
pp.844-847
発行日 2008年6月10日
Published Date 2008/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409101794
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はじめに
妊娠中の風疹感染症では,母体症状・管理だけではなく胎児・新生児への影響にも留意しなければならない.太平洋戦争後の沖縄での風疹大流行の半年後に多数の先天性風疹症候群(congenital rubella syndrome : CRS)が出生し社会問題となった.このことにより,産科医・国民は妊娠と風疹感染に注目することとなったが,妊娠初期の風疹検査結果のみで安易に人工妊娠中絶を選択する風潮も生じた.その後CRSは報告がきわめて少なくなったが,3年前に再び2桁のCRSが発生し,妊婦の風疹感染の緊急対策が検討され,提言された.この検討で,従来信じられていた風疹の母子感染に関する医学常識が間違っていたことが明らかとなり,風疹特異的IgM陽性だけで風疹胎内感染を予想することは困難であることが判明した.したがって,CRSを恐れるあまりの安易な妊娠中絶を産婦人科医あるいは妊婦・家族が選択する医学的根拠を失った.
風疹の診断,治療だけではなく,風疹に感染する可能性のある妊娠可能年齢の女性がCRSを出産することを予防することが強く望まれる.これにはまず妊婦の風疹抗体の有無をスクリーニングし,抗体陰性あるいは低抗体価の妊婦には産後にワクチン接種をしなければならない.
母子感染についてエビデンスのある診断法・治療法・管理法については,患者ならびに家族に十分に説明したうえで実施することが大切である.
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