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1 診療の概説
乳汁漏出症(galactorrhea)を大別すると,通常の血液検査でみつかる顕性高プロラクチン(PRL)血症を伴うものと,そうでないものに分けられる(図1).高PRL血症を伴わない乳汁漏出症はさらに,特殊な血液検査ではじめてPRL分泌異常がみつかる潜在性高PRL血症(latent, occult or transient hyperprolactinemia)を伴うものと,そうでないものに分けられる.実地臨床上は高PRL血症を伴わない乳汁漏出症も数多く存在する.高PRL血症は乳汁漏出症の約50~70%に認められ,したがって30~50%の症例は高PRL血症を伴わないと考えられる.
潜在性高PRL血症は,(1)血中のエストロゲン上昇に一致して,排卵前後に一過性に高PRL血症が認められる,(2)24時間採血を行うと夜間にのみ高PRL血症が認められる,(3)TRH負荷試験(メトクロプラミド : プリンペランなどを負荷することもある)でPRL値の過剰反応が認められる,のいずれかで診断される.(1)~(3)は,いずれもほぼ同じ病態をみているものと考えられている.実地臨床上は簡便性の点から(3)の方法で診断されることがほとんどである.このように,潜在性高PRL血症は通常の検査ではPRL分泌異常をみつけることができないが,不妊症,黄体機能不全を含む排卵障害,乳汁漏出をきたすことが多いといわれており,産婦人科領域における重要な疾患の1つであるといえる.
乳汁漏出症の中でも,乳汁漏出の程度には差があり,自然に滴下するものから,乳頭を圧してはじめて少量の分泌物が漏出してくるものまで種々の段階がある.高PRL血症を伴わない乳汁漏出症では,程度の軽いものがほとんどである.また,月経異常の程度も高PRL血症を伴う症例よりも軽度であり,無月経になることはほとんどなく,大半は無排卵周期症,黄体機能不全,遅発排卵などにとどまる.
正PRL血性乳汁漏出症の約1/3は潜在性高PRL血症を伴うが,残りはPRL分泌に異常を認めない.これらは乳腺のPRL感受性の違いや乳管開口の程度などにその原因が求められるが,詳細ははっきりしていない.乳汁分泌は乳腺側にもその原因があり,実際,既往妊娠・分娩歴を有する高PRL血症婦人では,そうでない婦人に比べて乳汁漏出の頻度が高いといわれている.乳腺のPRL感受性および局所環境に個人差があるからこそ,同じPRL分泌異常があっても乳汁漏出をきたす婦人と,きたさない婦人が存在するものと考えられる.
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