視座
医師はいつから自分の“腕”を信じなくなったのか
菊地 臣一
1
1福島県立医科大学整形外科
pp.981-982
発行日 1993年9月25日
Published Date 1993/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408901190
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医の本質は,ヒポクラテスの時代から「アート」と言われている.特にphysical signsを含む診断や相互信頼に基づく,個々の患者さんに応じた治療法の選択にその印象が深い.しかし,最近この誇りに満ちた言葉が根底から崩れつつあるのではないかと危惧される事実を幾つか見聞した.医療への信頼回復が叫ばれている昨今,我々に最も求められているのは,このヒポクラテス時代からの「医の本質はアートである」ということへの回帰ではないだろうか.幾つか私が見聞した具体例を記してみる.
最初の事例は,内科に関する話である.発熱と頭痛と咳を主訴として来院した患者さんに対して,医師は頭のCTを指示した.しかし,この患者さんは肺炎だったのである.咳をみたら研修医は癌を考え,経験豊かな医者は風邪を考えるという.このエピソードはそれすらも視野の中には入っておらず,私の理解を越えている.
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