書評
The Grasping Hand日本語版(グラスピング・ハンド)—手・上肢の構造と機能
大山 峰生
1
1新潟医療福祉大学・作業療法学
pp.1173
発行日 2023年9月25日
Published Date 2023/9/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408202782
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本書を手に取ると,まず目に入るのが「The Grasping Hand」という文字である.本書は解剖学書であるが,なんと斬新なタイトルであろう.タイトルには執筆者の深い思いが込められているものであるが,読者の方々はこのタイトルから何を感じとるであろうか.
手は人の進化の過程の中で重要な器官として存在し続け,中でも手の把持機能は人が生活する上で欠かせないものとして発達し続けてきた.初期においては環境に適応するために支持物を掴んで移動することを可能にした.次には,粗大な把持機能から個々の指の独立運動を獲得したことにより,精密な把持や道具の使用など,より高度な作業を可能とした.特に,道具の使用は手の延長として機能し,生存競争において優位性をもたらした.そして現代では,われわれは当たり前のように手を利用しているが,多くの動作において手が主役となって生活を支え,その手を効果的に使うために肩,肘,前腕,手関節運動が制御されていることを実感する.こうした観点から改めて本タイトルを見つめ直してみると,手の把持機能は果てしなく長い時間の経過の下に進化し続けてきた究極の賜物であり,「The Grasping Hand」というタイトルは手の基盤となる機能を示しているのみならず,この一語で手の重大さや尊厳までを表現しているといっても過言ではない.名づけの由来はどうあれ,原書編集者であるAmit Gupta先生ならびに玉井誠先生の手に対する敬意と情熱が直接的に伝わってくる感覚を覚える.
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