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手の科学の進歩は著しい.手関節部の骨折,橈骨遠位端骨折の治療も手の痛みの治療や骨折治療後の不安定症を含め,従来の科学では扱いきれない部分を持っている.例えば手には人間の顔と同じように表情と個性があり,人間の歴史と生活が刻まれている.生理学者ペンフィールドが示した“ペンフィールドの脳地図”では,手は脳の広い範囲を占める.歴史的にも猿人類からヒトへの進化の過程で二足歩行を獲得し,これにより手が自由となった.ヒトは脳の進化と並行して手と上肢が自由に使えるようになった.このように手の進化が脳,特に大脳皮質の体性感覚野の進化に先行したことは明らかである.脳と手は密接な関係があり,手を扱う外科医には高度の精神活動を表現する脳を理解することと,脳を上手に使える手を治す感性が求められる.本書は手の外科医ばかりでなく若手の一般整形外科医が日常診療上最も遭遇する機会の多い外傷・骨折を扱い,その治療を極めたエキスパートにより編集され翻訳された.
本書は第1部:手術進入法,第2部:症例に分かれ,外科的治療から合併症,リハビリテーションの方法についても言及している.また,手関節の外科解剖から骨折初期治療に至る治療計画を網羅し,手術手技やインプラントを的確に選択する根拠も明確に記載されている.執筆者はCampbell,Jupiter,Fernandez,Nuñezらいずれも著名な手外科医であり,本書はAO財団組織の中核である教育プログラムの軸となっている.また,この名著の翻訳に当たったのは,AO Trauma Japanのメンバーであり,監訳の田中正氏を筆頭に,訳者代表を金谷文則氏,訳者を佐藤徹氏,宮本俊之氏,善家雄吉氏が務めている.
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