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はじめに
急性肺動脈血栓塞栓症(acute pulmonary thromboembolism;APTE)は,体静脈系,特に下肢深部静脈で形成された血栓(深部静脈血栓症:deep vein thrombosis;DVT)が剝がれて血流に乗り肺動脈内にまで到達し,肺動脈を閉塞あるいは肺動脈血流を阻害することにより発症する疾患である.これまで,DVTは主に血管外科を中心に発展し,APTEは救急疾患として循環器・呼吸器内科を中心に発展してきたが,最近では連続した病態と考え両者を併せて「静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism;VTE)」と呼び,ひとつの疾患概念としての認識が広がっている.
以前,APTEは,エコノミークラス症候群として脚光を浴びた.しかし,もともと何らかの静脈血栓形成を容易にさせる危険因子があることや,ファーストクラスや,他の長距離交通手段でも発症することから,近年,旅行者血栓症(traveller's thrombosis)と呼ぶことが提唱された.
厚労省の人口動態統計によると,APTEによる単位人口当たりの死亡症例はこの50年間で約10倍に増加している10).さらに最近になり,旅行者血栓症として発症することはむしろ非常に稀であることが判明したため,注目点は病院内発症・院内死亡に対してどのように対応するかという点に移行した.
APTEは,いったん発症するとその臨床経過が重篤になる症例が多く,適切な処置を怠ると不幸な転帰をとる可能性が高いことから,その発症予防対策,発症時の迅速な診断および治療が非常に重要である.このため2004年,わが国の9つの関連学会と肺塞栓症研究会は合同で,『肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン』を策定した5).
本稿では,このガイドラインに基づき,整形外科領域での周術期管理に必要なVTEの診断および治療とその予防を概説する.
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